アジアの災害記録と記憶:サイクロン・ナルギス
「情報が命を左右する」
ミャンマーを襲った巨大サイクロン・ナルギスから今日で12年が経ちました。吹き寄せ効果による3mもの高潮が低湿地帯に暮らす人々を飲み込み、8万4,537名死亡、5万3,836名が行方不明となりました(Source: Hazard profile of Myanmar, 2008)。被災地では、「サイクロンがどのようなものか分からなかった」、「何をしたらいいのか分からないまま避難が遅れた」等、知識があれば助かるはずの命が失われたことを、ご遺族や被災された方々は語りました。
気象水門局からの情報は当時限られた情報源であるラジオから流れていましたが進路予想や大きさの視覚的伝達には限界がありました。さらには気圧、雨量、風速の計測数値や高潮の高さを数字で伝えても、サイクロンを経験したことのない住民にとってそのインパクトを想像することは容易ではありませんでした。
SEEDS Asiaは、皆様のご支援・ご協力により防災教育を様々な形で展開して参りました。2017年からは防災教育の一環として、ミャンマー初の学校における簡易気象観測機器の設置を始め、昨年には6基を追加設置しました。ナルギスの被災地であるラプタ地区の第二高等学校の教員ウー・ミンテイン先生は、一日3回の定期観測を継続し、校内と地域の防災リーダーに日々共有しています。ウー・ミンテイン先生は、「ラプタ地区ではサイクロン・ナルギスで約8万人の人が犠牲になりました。例え同じようなサイクロンが来ても同じ被害を繰り返さないために、自分ができることは地域や子どもがニュースで流れる天気予報をちゃんと理解できるよう、日々の観測情報と共に教訓を伝えていくことだと思っています」と、話していました。
今年は新型コロナ拡大感染を防ぐため、例年のメモリアル式典は自粛となりました。しかし、いざという時の「命を守る行動」を実践するためには、日常からの情報収集によって信頼すべき情報源を見分け、正しい理解への努力が欠かせません。ナルギスの一つの教訓は、「withコロナ時代」にも当てはまる大切な教訓であると言えます。
例え同じような災害が来ても絶対に同じ被害を出さないために。100年後、そしてもっと先の未来をつくるために。SEEDS Asiaは命とまち、そして未来への希望が奪われることのない社会を目指し、日本を含めたアジアでまちづくり・人づくりにこれからも取組んで参ります。
最後に改めて、サイクロン・ナルギスで亡くなられた方々のご冥福を心よりお祈り致しますと共に、今日の日を思い出す全ての方々に安寧が共にありますように。
写真 1:生徒と共に気象観測をおこない、読み取った情報の意味について教える教員の様子(ラプタ第二高等学校 2019年11月撮影)
写真2:休校の日も続けられている日々の気象観測記録 (ラプタ第二高等学校 2020年5月2日撮影))