【認定】特定非営利活動法人SEEDS Asia

知らなかったサイクロンの目―防災活動センターボガレ区 第2号地 コンティーチャウン村のこと―【ミャンマー】

ミャンマーで現在実施中のJICA草の根技術協力事業の一環として、ヤンゴン地域及びエヤワディ地域内に全6箇所の防災活動センターの設立を計画しており、6月に最後の6箇所目が決定しました。場所は、エヤワディ地域ボガレ区、チョンニョンジー島・コンティーチャウン村。余談ではありますが、この村は、「ナッ」神と呼ばれるミャンマーの伝統的な精霊信仰で、「ウッシンジー」という竪琴弾きの水の神様に由縁ある場所として知られています。

 

防災における人材育成と学校と地域の連携の仕組みをつくり、継続的な防災活動を目指す「防災活動センター」の設立場所の選抜にあたり、同区内の災害リスクの高い場所に募集をかけたところ、10校からの応募がありました。区長他役員、区教育省、SEEDSメンバーにより、6つの選考基準(①実施意志、②アクセス、③脆弱性、④基本インフラ(防災活動センターの建物は既存の場所を活用するため)、⑤格差なく使用できること、⑥持続性)に基づいた選抜プロセスを経ました。

 

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中でも①の実施意志は他の②~⑥を確保する上で、条件となるもの。コンティーチャウン村は、防災活動センター設置を強く希望していることが応募書類からも読み取れ、他の基準も十分にクリアしていました。そこで、私たちは決定通知と共に、7月8日、コンティーチャウン村を訪問し、教員と住民を対象とした「防災活動センター説明会」を実施しました。
今日はこの村の状況について共有したいと思います。

 

2008年、サイクロン・ナルギスが、この村の上空を通過し、住民の85%に当たる約600人の命を奪いました。 比較的頑丈な米倉庫の屋根に避難していた約100名が助かりましたが、支援が届くまでに被災後一か月ほどかかり、被災者は「ココナッツの水を飲んで生き延びた」と言います。しかし、子どもや高齢者の中には、衰弱や感染症、持病の悪化により死亡していくケースが多くあったようです。多くの遺体が浮かんだ河や田んぼには鼠が大量に発生、遺体が運ばれたあとも、労働力の減少と田んぼに残った海水によって、米の収穫量は半減(3年間)。漁師もボートや網、気力を失うなど、生き延びた被災者の生活は困難を極めました。

 

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住民らは、当時の状況を振り返り、水と食糧を準備しておくこと、そして知識の重要性を強く感じていました。「サイクロンは、強い風がただ横から吹くものだと思っていた。あんな渦を巻いているとは村の誰も知らなかった。途中で急に風が止まり、青空になったので、米倉庫に避難していた人の多くが自宅に帰っていった。しばらくすると、今までよりもっと強い雨と風が村を襲い、いったん帰っていった人は、もう戻ることがなかった」、と述べています。住民はサイクロンの渦の写真を被災後に初めて見ることになり、あの青空が、サイクロンの目であったことを後から知ったのでした。

 

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【ナルギスの上空写真(NASA):http://www.jpl.nasa.gov/news/news.php?release=2009-031】

 

 

台風の目を知らない日本人の大人に私は出会ったことがありません。日本は、電気やテレビの普及率、天気予報の機材の精密性・人材の能力の高さは世界に誇るべきもので、高い就学率と沢山の図や写真、実験のできる理科の授業のお陰で、雲がなぜできるのか、台風と言えば、渦を巻く雲の様子が目に浮かびます。しかし、ミャンマーの農村部では無電化村がまだ多く、テレビがなかったり、就学できなかったり、学ぶべきことが教えられていなかったり、その教材がないという問題を今も抱えています。もし、住民が、サイクロンの中、急にあらわれた青空をサイクロンの目と認識し、避難場所から動かずにいたら、多くの人が助かったはずと悔やまずにはいられません。

 

コンティーチャウン村は、被災後、残った多くの住民が一旦島の外に出たものの、日本政府含め、支援団体が学校の再建、シェルターの建設、農業・生活支援をおこない、住民の多くが帰還するようになりました。しかし、コンティーチャウン村に限ったことではありませんが、ナルギス後、7年が過ぎ、サイクロンを知らない子どもたちが増え、一方、突貫工事で進められた安全基準を考慮していない学校や住居が数年前から腐り始めており、今、新たなリスクを生み出しつつあります。改めてこの村で、村の方々と共に、災害についての正しい知識や状況を共有し、次の災害に備えることついて考え、二度と同じ過ちが繰り返されることのないよう、被災の歴史を次世代へと継承していくことに取り組んでいくこととしました。

 

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【写真:ナルギス後に建設された、安全性を考慮していなかった校舎は、既に柱や天井が腐り、使えない状況】

 

今後、防災活動センターを通じた防災トレーニングによる知識と技術の向上、ネットワークの強化、マングローブなどの自然環境保護による防災効果の促進など、またご報告していきたいと思います!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2015/07/14

各地からの活動報告