【認定】特定非営利活動法人SEEDS Asia

ミャンマーからの国外避難生徒への状況調査を開始

2021年のクーデターから、民主化を求める市民に対するミャンマー国軍による弾圧が激化し、銃撃や空爆が国内の6割を超える地域で発生しています。こうした状況から約300万人に及ぶ人々が国内外で避難を強いられています。

 

SEEDS Asiaは、こうしたミャンマーにおける混乱の中、国外避難民となっている子どもの教育継続と多様なリスクへの対処能力向上に向けた事業を実施しています。

 

2024年6月6日から、事業校の協力を得て事業開始時の子どもたちの状況を把握する調査を開始しました。ここで紹介するのは、6月6日に回答してくれた10年生から12年生(日本でいうところの高校生)130人の回答に基づく速報値です。子どもたちの状況を把握し、一人でも多くの子どもたちの願いと安全を確保できる支援につなげたいと考えています。

 

1. クーデター後、移民を受け入れる学校の児童・生徒は3倍以上に
事業の支援の対象となっている学校では毎日入学希望が絶えませんが、現在は教員も校舎も不足しているため、断らざるを得ない状況になっています。

アンケートでは、子どもたちに、「今避難しているまちで生まれましたか?」という質問をしたところ、30%の子どもが「はい」と答え、67.7%が「そうではない」と答えていることから、7割近くの子どもが、生まれた場所から新しい土地へと避難してきたということが伺えます。加えて、2.3%の子どもが「避難キャンプ」で生まれたと答えていました。移民学校にはこうした多様な背景を持つ子どもたちがおり、クーデター後は3倍以上へと膨れ上がっています。

2. 10人に1人の子どもが「困った時に誰にも相談できない」と答え、約8割の子どもが「孤独や気分の落ち込みを感じている」

避難している子どもたちは、今までの慣れ親しんだ友人や近所の人々など、社会的関係性を断って避難しています。質問票では「何か危険なことがあった時、困ったことがあった時に誰に相談しますか」と尋ねたところ、63. 1%は「家族」、29.2%は「友達」、3.8%が「学校の先生、信頼できる人」と答えています。ただ、13.8%の子どもが「誰にも相談できない」と答えており、厳しい環境下において10人に一人の子どもが誰にも相談できない状況となっていることが分かります。また、別の質問で、「誰と避難してきましたか」という質問も行っており、ここでも13.8%の回答者が家族や親戚でもない人々と避難していることも見えました(属性など詳細の分析は今後おこなっていきます)。さらに、「孤独を感じたり、落ち込むことがあるか」、という質問に対し、7%が「いつも感じている」69%が「感じる」と答えており、相談できる環境や関係が必要であることが把握されました。

 

3. 世帯・居住環境の多様性

国外避難の世帯の多くは、違法で川を渡って隣国にたどり着いており、法的に不安定な状況で暮らしている世帯も多くいます。経済的な安定性も見込めない場合には、賃貸契約も難しい状況となっており、他世帯で暮らすケースも多くあります。そこで、「何人と一緒に暮らしていますか」という質問をしました。結果としては、2人というケースもあれば他世帯合同で10人、というケースもあり、多世帯居住のケースも複数確認できています。また、このまちには多様な理由で親を失ったり親と共に暮らすことができない子どもが約3,000人ほどおり、保護施設で暮らしています。この学校にはこの保護施設から通っている子どもも多く通っています。

 

4. 63.8%の子どもが「大学に進学したい」

回答者の63.8%が大学進学への希望を持っていることが分かりました。19.2%は「分からない」、16.9%は「希望しない」と答えています。

 

5. 子どもたちが今学びたいこと

「学校で学んでいることに加えてもっと学びたいことはありますか」と尋ねると、73.8%が「ある」と答えています。その内容についての自由回答では、「語学(英語・タイ語)」、「パソコンやIT技術」、「護身術」、「ダンス」、「歌」、「バレーボール」、「絵画」が挙がりました。本事業ではパソコンを供与し、ICTを活用した多様なリスクへの対処研修を5年生以上の全員に対して実施いくことになっており、学びの幅が今後広がることが期待されます。

 

6. 携帯電話の保持率は93.8%

10年生以上の回答者からはほとんどの子どもが自分自身の携帯を保持していることが把握されました。家族で共有しているケースや持っていないというケースは稀であることも把握できました。

 

7.子どもの身近にある犯罪・暴力

「盗難事件を身近に見たり聞いたりしますか」という質問に対しては、13.1%が「頻繁に見たり聞いたりする」と答え、59.2%が「時々見たり聞いたりする」、10%が「1回だけ見たり聞いたりした」と答えています。17.7%の「全く見たことも聞いたこともない」という回答者を除く8割以上がこうした犯罪の機会を見たり聞いたりしている、という状況にあります。加えて、暴力についても23.1%を除く8割弱の子どもが、暴力を身近で見たり聞いたりしており、このうち14.6%が「頻繁に見たり聞いたりしている」と答えています。

 

8.子どもにとって怖い警察

ミャンマーは日本のような島国ではないので、多くの国と国境を接しています。そのため、国外避難においては、隣国にとって「違法」となる滞在のケースも発生します。また、違法ではない滞在であっても、自由な行動や移動が許されているわけではないことから、54.6%の子どもが避難しているまちで自由に移動することができないと答えています。こうした背景から、子どもたちが最も怖いと感じていることは、「滞在国の警察」が最多で50.8%。続いて24.6%が「交通事故」、13.8%が「感染症(マラリアやデング熱が多い)」、6.9%が浸水などの「自然を起因とする災害」、3.8%が「火災」が怖い、と答えています。

 

 

以上が6月6日に回収した10年生から12年生分の回答結果の概要です。これから、9年生から5年生までの調査も引き続き実施していきます。

 

11年生と12年生は昨年度にパソコンの授業があったことから、オンラインでの回答ができましたが、これからパソコンを学ぶ10年生は回答も難しい状況でした。今後は紙ベースでの回答になるので、入力作業を経て全体像を把握していくことになります。

 

回答者の自由回答のコメントの中に、「安全な環境にするためには、沢山やらなければならないことがある」という回答や、「12年生を終えたら、私たちはどうしたらいいのかわからない」と言ったコメントもありました。

多様なリスクに晒された避難生活の中で、子どものたちの安全と希望をいかに守っていくのか。回答結果から課題の重さを感じるからこそ、事業の効果的な進め方を常に関係者間と相談・検討しながら進めていきたいと思っています。

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2024/06/07

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