【認定】特定非営利活動法人SEEDS Asia

ミャンマーからの国外避難生徒への状況調査

2021年2月のクーデターから、3年が過ぎました。
2024年6月の今も、ミャンマー国軍による民主化を求める市民への弾圧や民主化勢力との武力衝突が続き、国内の6割を超える地域で銃撃・空爆・放火やインフラの破壊が発生しています。このような混乱の中で、危機にさらされた300万人を超える人々が国内外への避難を強いられています。

 

SEEDS Asiaは、こうしたミャンマーにおける混乱の中、国外避難民となっている子どもの教育継続と多様なリスクへの対処能力向上に向けた事業を実施しています。

 

2024年6月6日から、事業対象校の協力を得て子どもたちの状況を把握する調査を開始しました。ここで紹介するのは、6月3日~同月7日に回答したタイ国内にある移民学校に通う5年生から12年生(日本でいうところの高校生)700人の回答を概要としてまとめたものです。

子どもたちの状況を把握し、一人でも多くの子どもたちの願いと安全を確保できる支援につなげたいと考えています。

 

1. 学ぶ場所がない!先生が足らない!:クーデター後、移民を受け入れる学校の児童・生徒は3倍以上に
調査を実施した事業対象校では、クーデター以前には400人規模だった児童・生徒が1,200人を超える事態となっています。さらに、毎日入学希望者が絶えません。しかし、教員も校舎も不足しているため、断らざるを得ない状況になっています。ミャンマー国内から避難する子どもの数に、学校の数が追い付いていないという現状が明らかとなっています。

2021年のクーデター以前から移民学校に通っている児童・生徒は3割、約7割がクーデター後に入学した子どもです。また、このうち、2.3%の子どもが「避難キャンプ」で生まれたと答えていました。移民学校にはこうした多様な背景を持つ子どもたちが通っています。

 

2. 助けてほしい!と言えない:6人に1人の子どもが困った時に誰にも相談できず、8割を超える子どもが孤独や気分の落ち込みを感じている

避難している子どもたちは、今までの慣れ親しんだ友人や近所の人々など、社会的関係性を奪われた状態で避難しています。質問票では「何か危険なことがあった時、困ったことがあった時に誰に相談しますか」と尋ねたところ、「家族」や「友達」、「学校の先生、信頼できる人」と答えましたが、16.9%(約6人に1人)の子どもが「誰にも相談できない」と答えていました。

また、別の質問で、「誰と避難してきましたか」という質問をしたところ、家族や申請でもない人たちと避難してきた子どもたちが3割を超えることがわかりました(62.6%が家族、26.0%が親戚、11.4%)。さらに、「孤独を感じたり、落ち込むことがあるか」、という質問に対し、8.2%が「いつも感じている」72.8%が「時々感じる」と答えており、相談できる環境や関係が必要であることも把握されました。

 

3. 知らない町で知らない人と暮らす:世帯・居住環境の複雑性

国外避難の世帯の多くは、正式な国境ゲートではなく川を渡って隣国にたどり着いています。そのため、法的に不安定な状況となっている世帯が多く、居住の際には賃貸契約が困難となっています。結果、契約が可能な世帯に付随するケースが見られ、多世帯で暮らすという事例も多くみられます。

そこで、「何人と一緒に暮らしていますか」という質問をしたところ、2人から24人まで、居住人数の幅が見られました。さらに、このまちには多様な理由で親を失ったり親と共に暮らすことができない子どもが約3,000人ほどいると言われており、移民学校に敷設された保護施設で暮らしている児童・生徒もいました。

 

4. 大学に行きたい!:大学への進学希望生徒は7割を超える

回答者の70.3%が大学進学への希望を持っていることが分かりました。18.1%は「分からない」、11.6%は「希望しない」と答えています。現在は、移民学校へのGED(米国の高卒認定試験)プログラムが開始しており、基本的なデジタルスキルと英語での回答ができれば挑戦できるようになっています。試験に通過すると、タイ国内や海外への大学にも入学できる可能性が大きく広がります。

 

5. 子どもたちが今学びたいこと

「学校で学んでいることに加えてもっと学びたいことはありますか」と尋ねると、73.8%が「ある」と答えています。その内容についての自由回答では、「語学(英語・タイ語)」、「パソコンやIT技術」、「護身術」、「ダンス」、「歌」、「バレーボール」、「絵画」が挙がりました。本事業ではパソコンを供与し、ICTを活用した多様なリスクへの対処研修を5年生以上の全員に対して実施いくことになっており、学びの幅が今後広がることが期待されます。

 

6. 携帯電話の保持率は93.8%

10年生以上の回答者からはほとんどの子どもが自分自身の携帯を保持していることが把握されましたが(93.8%)、5年生までを含めると88.7%でした。9割近くが自分の携帯電話を所持しており、家族で共有しているケースや持っていないというケースは稀であることも把握できました。事業の中では、こうしたサイバーリスク(サイバーいじめを含む)についても取り扱っていくことにしています。

 

7.子どもの身近にある犯罪・暴力:7~8割の子どもが経験・見たり聞いたりしている

「盗難事件を身近に見たり聞いたりしますか」という質問に対しては、11.3%が「頻繁に見たり聞いたりする」と答え、49.7%が「時々見たり聞いたりする」、12.1%が「1回だけ見たり聞いたりした」と答えており、8割近くの子どもが盗難の被害を受けたり、見たり聞いたりしている、という状況にあります。

加えて、暴力については13.9%が「頻繁に見たり聞いたりする」と答え、48.1%が「時々見たり聞いたりする」、7.4%が「1回だけ見たり聞いたりした」と答え、7割の子どもが、暴力を経験するかあるいは身近で見たり聞いたりしていることがわかりました。

 

8.警察が一番こわい!:誰も守ってくれない環境にある子どもたち

全ての避難が合法的な手段で行われないケースもあります。その取り締まりをするのが避難先の警察です。ミャンマーの子どもたちは、自分の国や軍の脅威に晒されているばかりでなく、隣の国の警察に逮捕されることすらあれ、保護・庇護の対象となることはありません。自由な行動や移動が許されているわけではないことから8割の子どもが避難しているまちで自由に移動することができない・制限があると答えています。

こうした背景から、子どもたちが最も怖いと感じていることは、「滞在国の警察」が最多で45.9%。続いて31.7%が「交通事故」、21.7%が浸水/火災などの「自然を起因とする災害」、20.1%が「感染症(マラリアやデング熱が多い)」と答えています。また、8.6%が家族などで発生する暴力と答えており、子どもにとって安全な環境を確保することが難しいことも把握されました。

 

 

回答者の自由回答のコメントの中に、「安全な環境にするためには、沢山やらなければならないことがある」という回答や、「12年生を終えたら、私たちはどうしたらいいのかわからない」と言ったコメントもありました。

多様なリスクに晒された避難生活の中で、子どものたちの安全と希望をいかに守っていくのか。回答結果から課題の重さを感じるからこそ、事業の効果的な進め方を常に関係者間と相談・検討しながら進めていきたいと思っています。

以上が6月3日~同月7日に回収した移民学校に通う5年生から12年生分の回答結果の概要です。
(なお、11年生と12年生は昨年度にパソコンの授業を受講した経験があったことから、オンラインでの回答でしたが、10年生以下は紙ベースでの回答です)。

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2024/06/07

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