アジアの災害記録と記憶:台風ヨランダ
年中、世界中で災害が発生する近年、「誰もが災害に向き合う時代」を生きているということを強く認識せざるを得ません。
2013年11月7日、強い勢力を維持した台風ヨランダ(国際名:ハイエン)がフィリピンに上陸し、強風と高潮が中部ビサヤ地方を襲いました。死者は6,300人以上にのぼり、230万人がこの災害を機に貧困に陥ったと言われています(世界銀行発表による)。毎年のように台風の影響を受ける北部と違い、ビサヤ地方は長年台風や地震の影響を受けず、住民にとって彼らのまちは「絶対に安全」な場所でした。しかし2013年10月にマグニチュード7.2のボホール地震が発生し、その約1か月後にフィリピン史上最大の死者をもたらすヨランダが多くのまちを襲いました。2013年は、ビサヤ地方の住民が「安全なまちなどないのかもしれない」と自分たちのくらしを再認識せざるを得ない辛い経験が続いた年となりました。
台風ヨランダの後、SEEDS Asiaはフィリピン教育省と現地学校への緊急支援を実施し、2014年からは子ども達が「災害に向き合う時代」を生きるために必要な教育を実践するため、そして2017年からは学校の防災管理体制を強化するため、阪神・淡路大震災の教訓を教育に生かしている兵庫県教育委員会とともに、長期的な教育省支援に取り組みました。活動を続ける中で、「地震が起こった後に外に出たが、パニックになって安全確認をする前に建物に戻ってしまった」や「このまちには台風は来ないと信じていたのに」など、災害に対峙する備えができていなかったことを示す発言が聞かれました。しかし、5年以上に渡るフィリピンでの事業運営を通じ、現地の学校が未曾有の災害にも向き合うようになりました。それぞれの学校がリスク分析に基づき、最悪のシナリオに基づく訓練や関係機関との調整を始めたことは、大きな成果だと考えられます。
過去の教訓を活かすことは防災・減災の大原則ですが、これからは、想像力を使い「これまであり得なかった」災害にも対峙する時代です。SEEDS Asiaは未災地での活動を強化し、長年災害に遭うことがなかった地域が「数100年に一度」の規模の災害発生時に命、財産、くらしを守れるように、一歩ずつでも歩みを進みたいと思っています。