台風オデット被災校セブ州タリサイ市のCamp 4小学校とナガ市のUling小学校へのモニタリング訪問【フィリピン】
2023年8月23日、SEEDS Asiaは現地チームと本部事務局長、そして気象専門家(常葉大学 准教授 山根悠介先生)と共に、セブ州タリサイ市のCamp 4小学校とナガ市のUling小学校を訪問しました。
訪問の目的は、2021年12月に襲来した台風オデットへの対応に関連して、
- 気象情報の取得から防災行動に至るまでの過程において、過去の案件(JICA草の根技術協力事業)の成果として防災教育並びに防災管理に係る研修やツールがどのような場面でどのように活かされたのか、あるいは活かされなかったのか
- 被災後の緊急支援(一般寄付並びにジャパン・プラットフォーム:JPF支援事業)が教育の再開に役立ったかどうか、の確認を目的としました。
調査は、学校の防災管理コーディネーターを対象に、以下3つの手法を用いて調査を行いました。
A:SEEDS Asiaが現地教育省と共に実施した研修プログラムの受講経験を確認する質問票
B:学びや防災への態度・姿勢を問う半構造化インタビュー
C:台風発生情報を聞いてからの行動をタイムライン化していく半構造化インタビュー
上記の方法を通じ、どのようなタイミングでどのような情報を得て、考え、相談し、判断し、行動したのか、を把握する中で、2014年からのJICA草の根技術協力事業第1フェーズで実施した防災教育の成果や課題を確認し、また同事業第2フェーズでの学校の危機対応計画の活用の有無や課題を見出すことで、現行の事業の改善に活用できればと考えました。
調査の詳細な分析は今後進めますが、台風前には現地気象局(PAGASA)より台風情報が関係局に共有され、教育省第7地方事務所(セブ州を中心とした中部ビサヤ地方)から同地方事務所管轄内の地区事務所、そして学校の防災管理コーディネーターへと、適切にハザード情報が関係者間で共有される仕組みやネットワークが構築され機能していた事が把握されました。また、こうした情報を受けて、食料や水、燃料などの準備の他、学校が避難所とならざるを得ない場合を想定した避難所設営等、事前に受けていた研修が功を奏していたことも把握できました。特にタリサイ市では、オデットの1週間前にタリサイ市地区事務所管轄下の学校職員を対象に、災害対応に関する内容も含んだ防災管理研修がおこなわれたタイミングでもあり、その研修時には過去の案件で教育省と協働で開発・実施してきた研修内容が多く活用されていたことも把握できました。
ただ、オデットは260㎞/毎時、最大瞬間風速75mという、日本の風力階級の枠組みとしては「暴風」や「烈風」を越える最大級のカテゴリーである「颶風(ぐふう)」と呼ばれる超猛烈な風が特徴的でした。この颶風により、セブ州では電柱や倒木が全州で発生し、一か月を超える長期的な情報インフラへの被害が改めて確認されました。
被災時の緊急支援には、アカウンタビリティの確保のため、必要な支援物資の把握や対象者等、効果的な支援を確実に届けることを目的として、多くの情報が的確且つ迅速に必要となります。しかし、この情報インフラの甚大なオデットによる被災地においては、この収集・共有が著しく困難となっていたことを再認識するに至りました。さらには、コロナ禍の移動規制やクリスマスシーズンと重なり、メディアも少なかったことで、遠隔での情報収集は困難を極め、結果として緊急支援は想定より遅延してしまったことが一つの教訓として見えてきました。加えて、風速や雨量の数値が気象局などから共有されたとしても、その影響が自分の学校や取り巻く環境の中で、どのような影響をもたらすのかは、理解が困難だったことも把握されました。
情報ネットワークからの疎外により、孤立状態が続き先の見えない不安が増幅していたと言います。このような中、SEEDS Asiaが現地スタッフを派遣して状況を把握し、一般の方々からのご寄付やJPFからのご支援によって、教育省地区事務所への発電機への提供や、倒木撤去を含めたクリーンアップキットの提供と作業をおこなったことは、「学校の再開に非常に役立った」と教育省地区事務所の担当者や学校の防災管理コーディネーターが感謝の意を述べられており、調査をしながら現地のニーズに沿った緊急支援を多くの方々からのご支援によって提供できたこと、そしてその成果を確認できホッとし、嬉しく感じました。また、ここに改めてご支援をいただいた皆様、JPFに感謝を申し上げます。
気候変動の影響により、気象系災害の激甚化・頻発化は、フィリピンにおいても避けられない事態となっています。今後、SEEDS Asiaでは、フィリピン国内においてもできるだけ観測地を増やし、児童や生徒、教員の気象への関心を高め、気象情報の理解と対応の促進、そして気象専門家のご協力を得て、地域に応じた避難の促進など、学術と実践の相乗効果を測りながら事業を進めて参りたく存じます。引き続きみなさまのご支援・ご協力をお願い申し上げます。